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インドに映る(終)

3月20日

じっと野良犬を見ていると、動物の意思がはっきりとわかる。

お腹が空いたらゴミを漁り、のどが乾いたら水たまりで水分補給。
暑いときにはガンジス河で沐浴し、涼しい場所を求めて、車が行き交う通りを渡る。
ベンチの下の日陰を掘って、お腹をつけて昼寝して、暗くなると動きはじめる。

「あぁ、犬にも意思があるんだなぁ」と、思う。
生きていくには当たり前のことなんだろうけれど。

日本の犬も、ここに来たら自分で意思を持って生きていくのだろうか。

4月2日

「インド人は素直だから、旅行者の人間性がよく現れる」。

サトリさんの言葉が、すとんと胸に落ちてくる。

しかめっ面したドライバーも、しつこい物乞いも、強引な物売りの子どもも、騙そうとしてくる人も・・・。
自分の行動や言葉で、反応は変わる。

サトリさん曰く、「自分の国へ旅行に来て、心を開かず地元の人も信用せずに
嫌な顔をして歩いている人がいたら、ちょっかいをかけたくなる」のがインド人の国民性のようだ。

なるほど確かに、とうなずく。

他の国へ飛び込んで、多くの違いを受け止めるのは簡単ではないけれど、
少しずつでも理解しようとすることで、最初の頃とは、見える景色が大きく変わってきた。

今まで育ってきた環境や、時代の価値観でできあがった「わたし」を真っ白にして向き合ってみると、

(というか、そうせざるを得ないくらいに「わたし」の常識は通用しなかった)

今まで見えなかったものが、すんなりと見えてくるような気がした。

五感を使って暮らす、思いっきり怒って喧嘩する、大きな声で笑い合う、泣いてもケロッと立ち直る。
そんなありのままの自分を生きている人たちを見て、なんだか愛らしく、素敵だと思った。

どんどん殻が壊されて、どんどん人の優しさに触れて。
自分の小ささを知って。
支えられていることの、大きさを知って。

きっとまたインドへ行ったら、今とは違う顔をした、別の私が映るんだろう。