Stories

ここで書きたいこと

相変わらず、尾道はインプットすることが多すぎる。

ここに来てすぐに本を3冊買ってしまったし、

他の参加者さんからもおすすめの本や漫画を教えてもらったり
行きたい場所や会いたい人がいたり、またそこでも芋づる式に情報が入ってくるし


なんなんだ、ここは。と思う。

このままだと尾道の魔力(魅力)にやられて何も書かずに帰ることになりそうなので、
2012年にインドを旅した経験について書くことにした。

泊まっているゲストハウス「みはらし亭」。築100年の歴史を持ち、文化財として登録されている。

前からずっとインドの話を冊子にまとめたいと思っていて、
今回は時間をとって、当時書きためていた日記を整理するつもりだった。
けれど、コロナの後遺症で頭がぼーっとしているせいなのか、この旅は初日から忘れ物やトラブルつづき。
何よりも大事なパソコンの充電器とインドの日記を、自分の家に置いて来てしまったのだ。

宿の方にアドバイスをもらって、いくつかの電気屋さんに問い合わせた。

わたしのパソコンは少し古い型だったので、「取り寄せるまでに時間がかかりそう」という返事。
他の参加者さんも同じものは持っておらず、結局は家族に頼んで速達で送ってもらった。
今思えば、日記も一緒に送ってもらえばよかったのだけれど、そのときは完全に充電器のことしか頭になかった。

そういうわけで、選択肢はひとつになった。

制作会社の入社テストで書いた、インド旅行記のデータを使うのだ。

実際の日記と比べるとかなり短くなってしまうけれど、
パソコンのハードディスクにデータが残っているので、そこから拾って載せていこうと思う。

会社の最終面接での緊張を、今でもよく覚えている。

2次面接のあと、わたしの文章力を測るために、社長から宿題を出された。
「ボリュームや形式は自由でいいから、次の面接までに何か書いてきて」と。

面接でインドの話をしたら、社長も関心を持ってくれたので、書くテーマは決まっていた。
あれこれ悩みながら自分の日記とにらめっこして、そのままの日記形式でまとめていった。

最終面接の日、机をはさんで向き合って座り、書類を渡した。
社長は目の前で赤いボールペンを取り出し、
「ここは意味がつながってない」「話の背景がわからない」などと言いながら線を引いていく。

背筋をピンと伸ばしてその様子を見つめながら、わたしは冷や汗をかいていた。

しばらく経って、社長はペンの動きを止め、黙って文章を目で追っていた。
そして、読み終わってから大きく一言、「面白かった」と言った。

「また改めて合否を連絡します」と言われ、挨拶をしてオフィスを出た。

それから数日後に、家のポストに採用通知が届いたのだった。

どうしても今インドの話を書き始めたいと思ったのは、
尾道とインドに、どこか共通するものを感じるからなのかもしれない。

景色や文化はそれぞれに違うけれど、
古くからの歴史が残る街並みや、個性豊かに生きるひとたちから、大切なものをたくさんもらえる。

たぶん、この街の空気が心地いいのは

「自分の人生を好きに生きてもいい」と思わせてくれる包容力を感じるからだ。

アウトプットが苦手なわたしの背中を、半ば強引に押してくれたインドのように、
自分の中にあるものを表現して暮らす尾道のひとたちから、追い風を受けているような気がする。