Stories

寄り合い所

あっという間に秋がきた。

まだまだ先だと思っていたことが、すぐ目の前に迫ってくる。

9月も、ぐにゃぐにゃと変化をつづける日々だった。
自分の気持ち、視点、価値観、はたらき方、やりたいこと、行きたい場所・・・

自分のこころとからだに耳をかたむける。
小さな声でも、なるべくキャッチできるように。

なにか違和感があれば、「なんでだろう」と考えて、軌道修正をする。

その軌道が、どうやらまた大きく変わっていきそうだ。

ーーー

最近は寝不足つづきで、夕飯のあと、気づくとテーブルに突っ伏して寝ていることがある。

きのうの夜中、激しい雷雨で目が覚めた。
寝室がピカッと照らされ、ピシャン!と近くに雷が落ちる。
これでもか、というほどの強い雨。風がごうごうと唸っている。

激しい音を聞きながら、わたしは畑のことを考えていた。
このあいだ種まきをした大根が発芽したばかりなのに・・・

どうか雨が野菜たちに直撃していませんように。

いつのまにか眠りに落ちて、目が覚めると、外は静かになっていた。
鈴虫がコロコロと鳴いている。

午後からの仕事に行く前に、畑をのぞきにいこうかと思い
リビングへ行って時間を見ると、もうお昼をまわっていた。

あわてて準備をしてお店へ向かう。ひさしぶりに昼すぎまで眠ってしまった。

開店準備を済ませて、ほっとひと息。
最初のお客さんは、常連のおばあちゃん。いつものように手土産をぶらさげてやってくる。

こちらが恐縮すると、「自分のを買うついでだから」とか「もうすこし太らないと」とか言いながら手渡してくれる。

今日はひときわ大きな箱を持ってきたので、「どうしたの」と聞くと、
すこし間をおいて、「これなら施設のみんなで食べられるでしょう」と言った。

その気持ちがうれしくて、素直にお礼を言って受け取った。

「今日のお昼はお寿司屋さんへ行ってきたから、ほんとは巻き寿司を買ってあげたらよかったなあと思ったんだけど」。


こんなに大きな巻き寿司なんよ、と顔の前で輪っかをつくる。

その姿が可愛らしくて、思わず笑ってしまった。

施術をしながら、おばあちゃんの話を聞く。

毎日ごはんを作るのが大変なこと、耳の遠い旦那さんのこと、

モーニングへ行く喫茶店が混んでいることへの不満など。

それから、ひとつ大きなニュースがあった。

「今日はね、ここへ歩いてくる途中、鳩がバサッと飛び降りてきて、一緒に歩いてくれたんよ」と興奮しながら言った。

おばあちゃんは、以前から「自分の家に3羽の鳩が遊びにくる」という話を聞かせてくれていた。

ほかの仲間を呼ぶこともなく、いつも決まって3羽だけ。

朝、庭へ行くと、「ごはんちょうだい」という顔で待ちかまえているので、
旦那さんと一緒にお米や大豆をあげるようになったのだそう。

「たぶん顔を覚えてるんよ、賢いから」とおばあちゃんは続けた。

「名前はわからんから、鳩ちゃん、って呼んだの。
鳩ちゃんって呼びながらしばらく並んで歩いて、それからまた飛んでいったわ」

それはすごいねえ、と相槌を打つ。

「鳩って、歩くの速いんだよおー。帰ったら旦那にも言わないと」

興奮しながらうれしそうに話すおばあちゃん。

鳩と並んで歩いている姿を想像したら、なんだかわたしもうれしくなった。

おばあちゃんより年上の旦那さんは耳が遠いので、家では大きな声で会話をするのだそう。

そんなふたりの家の近くにも新しい家がどんどん建つようになって、最近は若い世帯が増えているらしい。

「うちのまわりは古いひとばかりだから、みんな顔見知り。
うちらが大きな声でしゃべっていてもみんな気にしないけど、若いひとがまわりにいたら、迷惑に思うだろうなあ」とつぶやいた。

奈良県出身のおばあちゃんは、幼い頃は長屋のような家に住んでいたらしい。
「みんな知り合いで、おしゃべりしたりお裾分けし合ったりしてたけど。今はもうそんな家、ないね」と言う。

「長屋みたいな家、憧れるけどなあ」とわたしは返した。

2021年に愛知に戻ってきてから、わたしは昔の「寄り合い所」のような、気軽にひとが集まれる場所をつくりたいと思い、
アイデアを書き出したり、イメージに近いお店やNPO団体へ見学をしに行ったりしていた。

あれこれ考えているうちに、わたし自身がはじめるのではなく、わたしのまわりで計画が動き出した。

美浜町で農業を営む仲間が、「風の森」という場所で。
岐阜県に住むイトコが、自分の家をリノベーションして。

それから数珠つなぎのように、紹介してもらった場所や遊びに行った先々で、
地域の特性や住人たちのアイデアを活かしたコミュニティに出会っていった。

今年の8月からは、北名古屋市が主催する
コミュニティスペースづくりのワークショップにも参加している。

まちに住むひとたちは、それぞれに豊かな経験や、得意な技術を持っている。
今まで埋もれていたものがつながる拠点となって、うまく循環していったらいいなと思う。

おばあちゃんにその計画を話すと、
「このへんは何もないけど、コーヒーを飲みに行ける場所が増えるね」と喜んでいた。

ワークショップを担当する市役所の方も、施術を受けに来てくれている常連さん。
ちょうど今日の夜に予約が入っていたので、計画の進み具合を聞いてみた。

まだ設計は固まっていないけれど、すこしずつ着実に進んでいる様子。

来年から工事がはじまり、秋ごろに完成する予定らしい。

いろんな場所で、あたたかい輪が広がっていることを実感している。
だからわたしは、自分のいる場所で、自分にできることをひとつずつ。

とりあえず、明日は仕事のあとに畑を見にいこうと思っている。