Stories

二拠点生活のはじまり

背中を押される、とかではなく
今年は何かに胸ぐらをつかまれてぐいぐい引っ張られているみたいだ。

勢いあまって前のめりに転びそうな日もあるし、(実際5月に塩屋の踏切前で転んでいる)
「いったいここで何をしているんだろう」と、膝を抱えて泣きたくなる日もある。

それでも自分を信じて、自分の直感を頼りにして、
ピンと来たらとりあえず動いてみる。

近況報告をすると、まわりのひとに「情報量が多い」と言われるのだけど、
正直なところ、自分でもこの展開についていくのが大変なのだ。

7月中旬から長野に移り、少し落ち着ける時間が取れたので
これまでの振り返りをしながら書いていこうと思う。

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「旅をしながらはたらいて、お金を貯めて創作活動をする」

昨年の秋ごろにその考えが浮かび、「もっと書きたい」という気持ちもふくらんでいき
仕事でお世話になっている方たちに相談をした。

10代の頃は地元から出て行きたくて仕方がなかったのに、今はずいぶん居心地がよくなって、
2年前から住みはじめた川沿いの古いアパートも気に入っている。

「なぜ北名古屋に戻るのか」と聞かれると、ひと言で説明することはできないのだけれど。

近くで暮らす家族や仲間たち、仕事でお世話になった方や、待ってくれているお客さん

田んぼが広がるのどかな景色と、幼い頃に遊んだ川沿いの桜並木

苦しい思い出が多かった中学校の近くも、ようやく穏やかな気持ちで歩けるようになって

そういう一つひとつの存在や記憶が、
見えない糸のようにわたしを結びつけているのかもしれない。

とはいっても、この先のことはわからないし、故郷かどうかにかかわらず
結局はそういう糸のような、ご縁のある場所に引き寄せられていくんだろうなとも思う。

それに、距離なんて関係なく「また帰りたい」と思う場所があちこちにある。

そう思える場所が増えていくのは、とてもありがたいことだ。

年が明け、どこに行くのかを決めかねているとき、友人と見学に行った福祉事業所の方から
「ニュートラの学校」というイベントをおすすめしてもらった。

名古屋で開かれていたそのイベントに行ってみると、国内外で活動をしている方たちが
福祉と伝統工芸、アートをテーマにしたプロダクトやサービスの発表をしていて、
そこで神戸の「つむぐ学舎 こづかやまLaboratory」という事業所に出会った。

代表の山﨑さんが持っていたラグマットに目を引かれ、声をかけた。話を聞くと、山﨑さんは東京でスタイリストをしていた経験があるという。

そのうちに、つむぐ学舎の近くにある塩屋というまちの話題になった。

塩屋にはフリーランスではたらくひとやアーティストが多く住んでいるらしく、
創作活動をしたいのならきっと刺激がもらえる、と教えてくれたのだ。

「スタッフ募集もしてるから、勇気があれば神戸まで」と名刺をいただいたものの、
成人の方の生活介護は未経験で、自分にできるのかという不安もあった。

けれど、山﨑さんから送ってもらった情報を見たり
塩屋について調べたりしているうちにどんどん引き込まれていき、
1週間後には神戸へ向かい、
つむぐ学舎の事業所と、入居先のシェアハウスを見学させてもらった。

塩屋には信号がなく、くねくねと入り組んだ路地に、急な坂道や階段が多い。
古い洋館や民家が建ち並び、少し坂を登れば海も見渡せる。

そこは尾道の街並みをぎゅっと縮めたような、懐かしさと新しさが融合しているまちだった。

事業所の2階で「いつから働けます?」と聞く山﨑さんに
「来週からお願いします」と勢いに任せて答え、
北名古屋の家は残したまま

翌週にはスーツケースとウクレレを抱えて神戸行きのバスに乗っていたのだった。